「笑うベートーベン」(その11)
   B : ベッティーナ・ブレンターノ
   L : ルードウィヒ・ヴァン・ベートーベン」

 B. はい、しばらくのご無沙汰でございましたが、L君には お変わりなく
  過ごされていましたか?
 
 L.  僕はね、もう相変わらずの毎日だけどその間、二度転居してる。
 
 B.  それはちょっと多くないですか?
 
 L.    作曲していて煮詰まってくると家政婦にコップや卵をぶつけるんだ。
   それでもはかどらないときは引っ越すんだな。
 
 B. 周囲の者は たまったもんじゃないですね。
  今悪戦苦闘しているというのはたしかオペラ「フィデリオ」でしたね。
 
 L. うん、よく知ってるんだね。
   もう何回手直ししたか自分でもわからないくらいだ。
   でもよく「フィデリオ」を知ってたな。
 
 B. 知ってますよ。 これでも私は社会派の女性詩人で通っていますので。
   そんなこともあって あまり都会では出ていない地方紙も目を通すように
   しているんですが そこでこんな見出しを見つけましてね。
   「ベートーヴェンネタで盛り上がる店」!
 
 L. なんかやな予感がするな。
 
 B. ところでベートーヴェン先生! デブリングという村はご存知ですよね。
   まさか「知らない」「記憶にない」とは言われませんよね。ね!

 L .知ってるよ。 だけど その新聞記事はどん内容なの?     
 
 B. 先ず記事の「文責欄」にはフランツ・グリルパルツァー 詩人となっています。
   
 L. 何だよ、詩人って!
 
 B  だってそう書いてあるからそうなんじゃないですか?
 
    内容をかいつまんで言えば「 1803年の夏、それまで住んでいたウイーン劇場の
    公舎から近郊のデブリングにベートーヴェン氏は居を移した。
 
    そこでは農夫たちの生き生きとした暮らしぶりを観察しながら散歩をするのが
    常でした。 その中にひときわ美しいリーゼという美しい娘がいた。
    村の貧しい農家の一人娘で 魅力的な笑顔と健康的で輝く肉体は周辺の男たちの
    アイドルであった。
    ベートーヴェン氏がリーゼに心奪われるのは当然すぎる成り行きだが
     プライドの高すぎる彼はいつも大きな木の陰からじーっと眺めていた。
 
    村の男たちを手玉に取ってきた娘にとってこんな状況は笑いをこらえる
    のに苦労したが しだいに大胆になり、乾草の上に両足を広げて座りこみ
    白い布で大きくはだけた胸の汗をゆっくり拭く姿を見せるのだった。
 
    完全に金縛り状態のベートーヴェン氏はすぐ後ろのあぜ道を農夫たちが
    通るのさえ気づかずに村中の笑いものになってしまった。
 
     その話を聞いた旅の途中の風俗画家でペーターフェンディが想像を交えて
     描いた絵が村の居酒屋にあって 実際その現場に遭遇したという人の話が
     毎晩夜遅くまで続くのでした。
 
  L.  ・・・・