「笑うベートーベン」(その9)
   B : ベッティーナ・ブレンターノ
   L : ルードウィヒ・ヴァン・ベートーベン」

B:前々回の「曲紹介ナレーション」なんですがおかげさまで大好評で早速新しいお便り
  も届いておりましてですね、これが時節柄 クリスマス用なんです 。

L:ほう、おしゃれですね。 どんな人から?

B:兄からなんですよ、それが。

L:あっ、君の兄さんから?

B:いえ、あれじゃあないです 。クレメンスの方です。

L:なんだい、あれじゃあないって。 何も言ってないだろ。

B:そんなのすぐ分かりますよ。今、思わず机の下へ入ろうとしたしたじゃないですか。

L:おい、こらっ。なんで机の下へ入らなきゃいけないんだよ。
  コップの水をかけるぞ、本当に。

B:L君ねえ、そういう態度はだめです。 だから人間は真摯に生きなきゃ駄目って事
  ですよ。

L:ワッハッハ(笑)お前さんにだけは言われたくないね。
  半年前に派手な事件でさんざんワイドショウをにぎわしておいて。
  「ゲーテ夫人 BeBeを殴り倒す!」のニュースは衝撃的だったぞ。
  道路に仰向けで倒れてる君の写真には大いに笑わせてもらったけど。

B:もう思い出したくもないけど、あの女いつでも私を見つけるとすごいいきおいで
  体当たりしてくるんですね。それでも初めのうちは上手くかわしていたんだけど
  だんだん敵もたくみにフェイントをかけてくるようになって、それがまともに顎に入って
  やられてしまったですよ。 チクショウ! いいか、こんどはそうはいかないからな。
  おぼえとけ! このやろう!

L:ウーン、どっちもどっちだ、コメントしようがないな。
  今回は格調高くクリスマスバージョンで行くんじゃなかったの?

B:ああ、そうです。その兄が送ってきてメールなんですが、

L:あの、どうでもいいけど、話の切り替えの早さにはちょっとついて行けないよ。

B:えっ、まあそんなもんじゃあないですか、だいたいが。
  このクレメンス兄貴なんですが以前からかなりのベートーベンファンなんです。

L:うん、知ってるよ。

B:?、なんで知ってるの。

L:たしか手紙のような詩のようなものをもらったことがあったな。

B:そうだったんだ。 でどんな内容だったんです?

L:およそこんな意味の事が書いてあった。
  「芸術家」も「犯罪者」も誰からも支配されない「独立者」だ。
  それは神の創った気まぐれな作品ではない。
  神から自立した存在なのだ。 共に「自分自身」を表現するアーティストなのだ。

B:アッハッハ(笑)それはちょっとアブナイですね。

L:それよりもこんなテンションの高さで長期間もつのかどうかそのほうが心配だった。
彼は今なにしてるの?

B:たぶんその頃だと思うんだけど、「ひきこもり新聞」なんか出してましたね。

L:なんだよ、それ。あれからひきこもっちゃたんだ。

B:そう、プライベートで色々あってきつかったみたい。
  だけど現在は「子供の不思議な角笛」を出したときと同じメンバーでまた各地方の昔話を
  集めてるいますよ。私も編集の仕事を手伝うんですが元気ですよ。

L:それはなによりです。

B:また今回はマールブルク大学のグリム兄弟のお二人が全面協力でスケールが一段と
  大きくなっています。

L:ほう、グリム兄弟と知り合いだったのか。

B:ちょうど私の姉の旦那さんがマールブルク大学のフォン・サヴィーニ助教授なので
  カッセルにある自宅へ時々遊びに行ってたんです。そこで学部の助手だった
  グリム兄弟と知り合ったということなんですけどね。
  みんなで「子供の不思議な角笛」の大成功を祝っているときに自然に「昔話」も
  今聴き取り調査をしておかないとオリジナルの形で語れる人がいなくなってしまう
  ということになって計画が一気にすすんだんで すよ。

L:たしかにそれは民俗遺産だよ。 民話や昔話は想像以上に我々の潜在意識に深く根を
  はっていることが多いんで出来たら手を加えずに記録するのがいだろうな。

B:学術資料としてはそうだけど採取してきたものの2割くらいはストレートのままでは
  強烈すぎて一般の童話としてはつかえないよ。
  とにかく親殺し、子殺し、近親相姦なんでもありですから、

L:おいおい!今日は上品なクリスマスバージョンじゃなかったの?

B:そうです、はい。今日紹介します曲はピアノソナタ30番です。
  それではクリスマスバージョンのナレーションがつきます。

 ピアノソナタ第30番 ホ長調 作品109番 

 第1楽章
森の中でクリスマスツリーに一番ふさわしいもみの木を切って運んでくれるのは
七人のこびとたち。 眠っている君たちを起こさないように、そっと戸に手を
かけるように頼んでおいた。 風を生む木の葉も声をひそめるように言っておこう。
みんな眠っているこの部屋で目覚めているのは愛だけ。

 第2楽章
こんな月夜には川から無数の白い魚が岸からはい上がり羊を襲うという。
あなたはずーっとその話をしている。
森の中ではもっと音楽のような話がしたい。
マドレーヌのような話が聴きたい。
なにがそんなにおもしろいのか。
あなたはまだ白い魚の話を力を込めて話している。

 第3楽章
森のこびとたちの運んできた立派なもみの木に飾り付けをしよう。
このときおもちゃ箱の中のたくさんの人形に手伝ってもらうのだ。
彼らはどんな手順で作業をすれば素早く豪華に仕上がるか知っているから。
そして輝く雪の朝、目を覚ませばすっかり飾り付けの済んだもみの木は
陽の光にキラキラしていることでしょう。