「「笑うベートーベン」より    その1

       B : ベッティーナ・ブレンターノ

       L :  ルードウィヒ・フォン・ベートーベン


B : 神聖なる古典音楽にそんな野蛮な音を持ち込んだら、
   なんて無礼な奴だと嫌われたり、恐れられたりしたでしょう?

L : 周りがなんと言おうと興味は無いんだけど、人間の音楽である以上、
   皮膚感覚を含めたナマの「五感」をストレートに使って
   何が悪いんだ?という気持ちは始めからあったね。 
   映画にもなったんだけど小説の「ブリキの太鼓」は知ってるでしょう?

B : ええ、作者のギュンターグラス氏とは以前雑誌の仕事で
   インタビューさせてもらったんでよく知ってますよ。

L : 気に入らない政治体制では大人になるのを拒否した少年が
   主人公なんだけど、現実にはそうもいかないものさ。
   だけど我々も周囲に対して「ブリキの太鼓」を打ち続ける事は
   できるんだよ。
   あの「運命」のテーマ、「ダダダ・ダーン、」 は僕にとっての
   「ブリキの太鼓」だったね。  上流貴族のパーティーに突然汚い身なりの
   小僧がオモチャの太鼓を叩きながら入ってきたら、どんなにスカッと
   するだろうかと思ったら、やはりワクワクするよ。 
   僕の曲を初めて聞いた時に、気取った権力者ほどビビッてたもんな、
    アハッハッ・・(笑)

B : それ以来でしょう、あなたの周辺に秘密警察が24時間マークするように
   なったは。 驚いた事に私の周りにもマークされた形跡があったんですよ。
   ベートーベンに近い女だという事で。

L : ワッハッハ・・(笑)    いいじゃないの、虫除けになって。

B : そういう問題じゃないでしょう、本当に! 何言ってんですか!
   まあ、でもそれによって音楽が鼓動を持った、と言うか
   「心臓」を持ったんですね。

L : いや音楽が生き物になったんじゃなくて、それは人間世界に興味を持って
  地上に降りた天使の手足に焼きついた「聖痕」として提示されているんだ。
  それは通常の社会的時間軸の中では見えていないんだけど、
   暗い雲がある瞬間切れてその時、見えてくるもの。

  天使と人の視点がルーレットのようにカチッと合った時、
   存在が信じられるもの。
   そんな私の考える音楽は、最終的には天上界へ戻るものだと思っている。


   ※ この作品の中でベートーベンを何回笑わせるか。  これはイメージが
     固定しがちなベートーベンに対するひとつの記録作りです。