「笑うベートーベン」より 

      B:ベッティーナ・ブレンターノ

      L:ルードウィヒ・フォン・ベートーベン

B:最近、音楽業界で、変な噂があるのを知ってます?

L:変な噂?

B:ベートーベンのファンクラブの中でも過激なグループが中心になって
  動いているんですね。
  彼らは以前からブラックリストには載ってるんです。

   たとえば、DJのおしゃべりがベートーベンの曲のアタマに少しカブッたり、 
   曲の最後を適当にフェイドアウトしたりするともう大変なんです。
   その直後から抗議の電話が殺到するんですよ。「局に火をつける」だとか
  「ぶっ殺すぞ」とか、とても仕事にならないんですよ。
   その連中がまた騒いでるんで問題になってます。

L:ほおー、「ベートーベンに勲章を与えろ!」とでも言ってるの?

B:あのねえ、どうしてそんな風に良い方ばっかりに想像がはたらくんです?
   そんなんじゃないないですよ。
   先週あるFM局がクレメンティのピアノソナタを特集すると予告したところ、
  企画自体がベートーベンサイドの圧力でつぶされた、と言うものなんですよ。

   かなり生々しいでしょ。

L:なんだよ、そりゃ。

B:放送の内容としてはアンチベートーベンとして有名な音楽評論家が
  ベートーベンは
この箇所とこの箇所をクレメンティから
  盗作してるって実際に比較演奏してみせるというかなりどぎついもの
  なんです。

   でその予告が出てから連日、局の方へ5,6人の男達が押しかけて
  大声をだしたり、
机を叩いたりして騒ぐので仕事にならないんですよ。
    それが実際に、ベートーベンがやらせたものかどうか本当は皆、
  気にはなってるんだけど
さすがに直接はちょっとね、遠慮がはたらいて
  聞けないんですよ。それでですね、

   どうなんですか?やっぱ子分を全部集めて「やれっ!」て言ったんですか?

L:ワッハッハ…(笑い) バカモーン! どこに遠慮があるんだよ。 まったく。
   無茶苦茶ストレートじゃないか。だいたいクレメンティになんでピリピリ
  しなきゃいけないんだよ。
くだらん話だ

B:そうでしょ、本当に私もそう思いたいんです。
  本当にそう信じたいんですけど、
先週、グループの代表者A氏に会って
  話がきけたんですよ。

L:ほお、よくそんな取材、向こうが受けたな。

B:あらっ、ドキッとした?

L:するわけ無いだろ。あほらしい。

B:私はベートーベン側の人間と見られてるんで、そのへんはOKなんですよ。
  それに
紹介状を持参したんで一発で許可が出ましたね

L:紹介状なんて書いてないよ。 そんなものどこにあったの?

B:いや、そんな大したものじゃないんですよ。
  名刺の裏に走り書きしたくらいの、まあちょっとしたものなんで。

L:ちょっとした、って、おい! まさか自分で書いてあちこちで使ってるのかよ!
  とんでもないやつだよ、お前は。

B:いまごろそんな事、言わないで下さいよ。
   そのへんは取材の初歩じゃないですか。 記事にウソさえ無ければ、
  あとは何でもあり、なんですよ。

L:うーん、その先を聞く元気が無くなってきたぞ。

B:だめだめ、 ちゃんと聞いて下さいよ。
  A氏が言うにはですね、
  最近いろんな方面から「ベートーベンは盗作しまくってる。」
 と言う話を、バラ撒かれてて、先生もそれをひどく気にしてるって言うんですよ。

  そこへ今度のクレメンティ特集の予告でしょ。
  血の気の多いサポーター達を完全に怒らせたみたいですね。

L:しかし、そんな話はかなり以前から耳にはいってきてることだよ。

B:えっ!そんなに以前からこの話はでてるんですか?

L:俺みたいな田舎者はとにかく敵だらけの中で育ってきたからデマや中傷が
  普段の日常
だと思ってた。 おまけにこのキャラクターでは大衆の心を
  サッと掴むテクニックなんて
最も苦手な分野だから名曲は
  かなり参考にしたな。

  だから、もうすでに、ピアノソナタの一番からしてコソコソ言われてたね。

B:この噂に関しては、すごいキャリアだったんですね。
  で、なんて言われたんです?

L:冒頭の部分はモーツアルトの交響曲25番の出だしの5小節目から
  そのまま写したんだろうって言われたりしたね。

B:そうなんですか?

L:うん、まあそうなんだよな。

B:アーッハッハッハ(笑い) 居直ってる、この人! すごい!

                                                            (この項つづく)