公園の風景  毛布のゲンさん

 ゲンさんはテレビ塔の見える公園の中でいつも暮らしています。
夜は暑いときも寒いときも、更紗模様の毛布一枚に包まって

眠ります。 
 それで公園の仲間たちは彼のことを「毛布のゲンさん」
と呼んでいます。
ゲンさんは人から話しかけられそうになると、
逃げてしまう癖があります。
ある日、夕方の公園でゲンさんの目の前を歩いていた老人が、悪い人にカバンを奪われてしまいました。すぐに警察の人たちがやってきて、近くにいた人たちにそのときの様子を尋ね始めました。
 ゲンさんはその様子をしばらく眺めていました。そのうち、気が付くといつのまにか一人の警察官がゲンさんのすぐ隣に立っていて話を聞こうとしました。
 そのとき、ゲンさんはあんまり驚いたのでダーッと逃げ出しました。その直後、何人もの警察官がワッ、と集まってきてすぐに捕まってしまいました。
 それからゲンさんは警察の留置所という部屋に入れられてしまいました。
 しばらくして、事件とは関係ないことが分かりました。
その日は寒くて夜遅くなっていたので、ゲンさんは警察に泊めてもらう事になりました。                       そのとき調べに当たった警察官は、偶然ゲンさんと同じ故郷の方言を使う中年の男の人でした。
 ゲンさんは懐かしくなっていろいろな事を話しました。街に来てからいろんな人にだまされた事やつらい事などをいっぱい話をしました。
 その夜、ゲンさんは夢を見ました。昔、故郷で一緒に働いていた頃の友達が何人も現れて、留置所へ会いにきたのでした。
 中には、とっくに死んでいて今はいない両親や友人も二人いました。
ゲンさんは驚いてどうしてここにこれたのか尋ねました。彼らは、ゲンさんが警察に捕まっている事のほうがもっと不思議だ、といって大笑い
しました。みんな懐かしい故郷の言葉でした。
 ゲンさんも少し笑ったあと目を覚まして、激しく泣きました。

 
明日は朝早く公園に戻り、多少の身の回りの品をバッグに入れて鉄道の駅に向かう西側の交差点に立とう、そして信号が青になったら迷わず一歩をふみだそう、ゲンさんはそう決心しました。
 
夜空には何十年に一度といわれる流星の群れがいっぱい流れていました。 
              
                              完

滝 田 浩  作